それぞれの道で 3 (斎藤×千鶴 転生後) 帰り、門で千鶴の姿を見かけ、誰かと待ち合わせをしているのかと思い声をかけた。 「どうした。誰かと待ち合わせでもしているのか?」 顔を上げ、嬉しそうな笑顔を浮かべ 「いえ、はじめさんを待っていたんです。お話がしたくて」 と、頬を染めた。 「そうか。俺もおまえと話をしたいと思っていた。家はどこだ? 送って行こう」 千鶴の肩に手をやり、漸く訪れたこの時間を未だ信じられず、夢ならば覚めて欲しくないと、そう願った。 「平助とは家が隣同士だそうだな」 「はい、同じ年に私達が生まれたので、親同士が仲良くなって、赤ちゃんの頃から一緒に遊んでいたそうです」 「……前世の記憶も幼い頃から持っていたのか?」 「はい。物心つく前から記憶があって、それを平助君に話したら、同じ記憶を共有していたので、子供の頃はそれが何だか解らなかったのですが、大きくなるにつれてきっと前世の記憶なんだろうね…って話をするようになっていたんです。私達がここにいるのだから、きっと皆さんもいるのではないかと、探していたんです」 「…そうか。俺は…ここに来るまでは誰にも出会わなかったから、自分がおかしいのではないかと思っていた」 「一人だったら、きっと私もそう思っていたでしょうね…淋しかったですか?」 「いや、淋しくはないが……おまえに…会いたくて仕方がなかった」 視線を反らし、更に頬を染めて、でも、嬉しそうに微笑む千鶴が愛おしくてたまらなくなった。 「私もです。薫や平助君が傍にいたから、淋しくはなかったですけど、はじめさんに会いたかったです。あ、薫も前世の記憶は持ってたんですけど、私達と違う記憶だったのに戸惑いましたけど…」 薫がどの記憶を持って生まれたのかは教えてくれないので解らないけれど、一緒に生まれたというのに、違う記憶を持つというのはおかしなものですね、と続けた。 「そうだな。しかし、局長や副長達も、皆違う記憶を持っているようだ。これから会う機会もあるだろう。話を聞いてみるのも良いかもしれぬ」 そう言ってはみたものの、俺以外の誰かと結ばれた記憶等、千鶴に知らせたくはないというのが本当の気持ちだった。 「いえ…はじめさんとの記憶だけで、私は充分です。幸せ…でしたし、今もこうして会う事が出来たのですから」 昔と変わらぬ控えめな性格。ささやかだが、確かにある幸せに感謝をする千鶴を愛おしく思い、立ち止り頬に手をやる。 「千鶴……」 髪を撫でると、その時漸く斗南で暮らすようになり、男装を解いた時にしていた昔の俺と同じ髪型をしている事に気付く。何故彼女を見た瞬間にそれに気付かなかったのか。あまりにもその髪型が俺自身の中で当たり前になっていたからなのかもしれぬ。 「ずっと、この髪型なのか?」 「はい。はじめさんが結ってくれた、はじめさんと同じ髪型ですから」 刹那…思わず俺は千鶴を引き寄せ強く抱き締めていた。 「はじめ…さん?」 驚いていたようだったが、優しく、柔らかく俺の背中に手を回す。 「会いたかった…ずっと、おまえに」 「私もです、はじめさん」 千鶴のおとがいに手をやり、顔を上げ、桃色の唇に己のそれを重ねた。想いが通じ合い、茨の道しか見えなかったのに、それでも俺の傍にいたいと告げてくれたあの日のように。死なせたくない、そう強く願っていたのに、それでも千鶴を追い返す事が出来なかったのは俺自身、千鶴を離したくないと願っていたから。あの言葉が嬉しくて、千鶴に触れたくて、口付けをした。初めて交わした時と同じく、俺は震えていた。 「…んっ…はじめ…さん…ここ…外です……」 「すっ…すまない」 まるで二人きりの世界にいるような気持ちになっていたが、今俺達は学校の帰りで、勿論ここはまだ外だ。幸い周りに誰もいなかったのだが。 身体を離したが、千鶴に触れていたくて、小さな手を取り、指を絡める。 「ふふっ…はじめさんは昔と変わりませんね」 「あぁ、そう昔と変わらぬとは思うが…」 不思議そうな顔をしていたのだろう「照れ屋さんなのに、急に大胆になる所、昔と変わらないです。私はその度にドキドキさせられっぱなしだったんですよ?」と、千鶴も指を絡め、甘えるように俺を見つめた。 「おまえも変わらぬ。そうやって俺を見つめる瞳。無自覚なのだろうが、そのような瞳をされては、おまえを閉じ込めて誰にも見せたくなくなる」 もう…と、頬を膨らませながらも、千鶴は嬉しそうで、漸く訪れたあの頃の幸せを噛みしめ、ずっと聞きたいと思っていた事を口にした。 |