ぞれの道で 2

(斎藤×千鶴 転生後)

 三年に上がり、今年も風紀委員として、毎日門に立ち仕事をこなしながらも、千鶴が入学していないかと新入生の顔を確かめていたが、千鶴らしい女子を見つけられず、出会う事はないのだろうか…と肩を落とした時「もう少しだ、頑張れ、千鶴!」と、聞き覚えのある声が聞こえた。 「ちょっ…もうちょっと早く平助君が起きてれば、始業式からこんなに走るはめにならなかったんじゃないの?」  閉めかけた門をそのままにして、平助と千鶴の姿を見る。あぁ、千鶴だ。嬉しさがこみ上げたが、千鶴と平助は手を繋いで走っていた。まさか…千鶴と平助は…そう思った瞬間、二人が俺に気付く。 「あー、一君」  ぜぇぜぇと、息を切らせながら平助が昔と変わらない屈託のない笑顔を見せる。千鶴は…と、目をやると… 「はじめさん……」  と、俺をそう呼んだ。そう「はじめさん」と、頬を染めて。初めて千鶴が俺の名を呼んだ時の事を今でも鮮明に覚えている。名を呼ばれるだけでこんなに幸せな気持ちになるのだと、初めて知ったあの夜を。
「千鶴」
 この腕の中に閉じ込めたくなる衝動を抑え、千鶴の辿った運命が俺の辿ったものと同じだった事が解っただけで、今はいい。
「何をしている。門を閉めるぞ。急げ」
「はい!」
 昔と変わらない笑顔を見せてくれた。俺は…その笑顔に応えられただろうか。
「一君、また後で話そうな」
 手を振りながらも、千鶴と手は繋いだままだという事が気になったが、千鶴の反応を見る限り、二人は恋人同士のそれではなさそうだ。
「あぁ、解ったから、とにかく急げ。入学早々遅刻などするな」
 笑いながら「一君、相変わらずだな」と、千鶴に話しかけ「そうだね」と、もう一度俺を見て、会釈をした。

 平助と千鶴はこの世では同じ年で、偶然隣同士の家に住んでいる幼馴染という関係だった。
 昼休みに近藤さん、土方さん、山南さん、総司、左之、平助、新八、そして俺が集まった。千鶴も呼んだのだが、お千ともここで再会をしたらしく、ここには来なかったが、今日はそれで良かったのかもしれない。皆の質問攻めで、きっと困っただろうし、俺自身、まだ皆に会わせたくなかったというのもある。皆に会わせる前に、二人で会いたかった。これは千鶴にも、皆にも言うつもりはないのだが。

「え? 総司も土方さんも、左之さんも、風間まで千鶴と夫婦になった記憶持ってんの? いいなぁ。オレなんか千鶴は一君を選んで、ずっと一君の傍にいたのを見届けたんだぞ。一君好きだし、千鶴が幸せだったらそれでいいと思ったけど、オレだって千鶴と添い遂げたかったなぁ」
 ちぇっ、と舌打ちをして、恨めしそうに総司たちを見ていた。千鶴とも前世の記憶を共有していて、あの後どうしたのか、どんな人生を送ったのか話をしていたらしい。
 何故こんなに皆の記憶がバラバラなのか、その理由は解らずじまいだったが、それを解明する術はこれからも見つからないだろうと、とにかく今は昔の事を忘れる事は出来ぬが、今この瞬間を生きて欲しいと、近藤さんが言った言葉の通りにしようと、纏めた。

 放課後、千鶴の兄、薫と初対面となった。総司から聞いていた通り、確かに千鶴とそっくりの風貌だったが、どこか冷めた目を持った男だった。千鶴に対して敵対心はないようで、どちらかというと妹を溺愛しているような印象だった。俺を見るなり「ふーん、おまえがはじめさん、か」と舐めるように見つめたが、俺達に対しても敵対心を持っているわけではなさそうだ。もしも、俺と出会う運命にあったとしたら、どうなっていたのだろう。そう感じたが、そんな事を考えたとしても、これもまた答えの出るものではない。ただ、千鶴の血を分けた兄だ。仲良く出来れば…と、そう思った。