れぞれの道で 1

(斎藤×千鶴 転生後)

 おそらく生まれた瞬間からだろう、俺には前世の記憶というものがあった。幼き頃は上手く言葉にする事も出来ず、この記憶もどういうものなのか解らなかった。誰にでもあるものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。周りに言った時に「うそつき」呼ばわりをされて以来、この話は誰にも話さず、ただ漠然と頭の中にある記憶が自分の前世であろうという事は月日を重ねる内に気付く事になる。ただ、こんな記憶を持って生まれる人間は少ない事もその頃には気付いていて、何故俺だけにこのような事が起きているのかと疑問を感じながらも、新選組の皆を…千鶴を探すようになっていた。もしかしたら同じように転生しているかもしれぬと…そんな淡い期待を抱きながら、日々を送っていた。
 運命の出会いは高校に入った時だった。校長は近藤局長、教師に土方副長と、左之に新八に山南総長もいた。同学年には総司もいて、山崎君もそこにいた。そして、生徒会には鬼どもがいて、皆前世の記憶があった。それはとても喜ばしい事だったのだが…
「前世では千鶴は俺と一緒だった」
 ふ、副長……?
「何言ってるの? 千鶴は僕と添い遂げたんだってば」
 総司が千鶴を呼び捨てにしているのを聞くのは初めてで違和感を感じずにはいられなかった。
「おいおい、馬鹿言ってんじゃねぇよ。千鶴は俺の子まで産んだんだぜ?」
 左之、おまえまで何を言い出すというのだ。
「貴様ら、何をふざけた事を抜かしているのだ。千鶴は俺の妻だと貴様らに我が妻を預けていた頃から何度も言っているだろう」
 呼んでもいないのに、ここにいるのは何故なのだ、風間。当たり前のように会話に参加してくるとはどういう了見だ。いや、そんな事はどうでもいい。ともかくこれはどういう事なのだ。千鶴は…俺と夫婦になった筈だ。近藤局長…いや、学園長に聞くと「雪村君はトシと一緒になったのを…そうか、君は知らなかったのだな」と遠い目をされ、山南さんに聞いてみても「私は…どうやら先に…なので、雪村君を見届ける事が出来なかったのですよ」と言われ、山崎君には「沖田組長と一緒になっていましたね」とサラッと言われた。新八からは「千鶴ちゃんは左之と一緒になったんだよ」と……
 副長の言葉は信用出来る…本来ならば信用したくないが、副長が嘘を言う筈がない。それに局長の証言もあった。総司や風間は…信用ならぬが、左之は…子供の名前や容姿まで言ってきたし、日本から離れたと言う言葉を聞いてそれがおそらく真実だったのだろうと思えた。天霧…あの鬼にも聞いてみたが「彼女が新選組の最後を見届けたいと、風間と北へ向かい、その時に心を通わせたようだ。もう既に新選組は負けており、江戸に戻った雪村君を暫くして風間が迎えに行き、添い遂げました」と、告げた。鬼の言う事を信じるつもりはないが、天霧の言葉は信頼出来た。だが、確かに俺は千鶴と愛し合い、共に生きたのだ。まだ平助と出会っていないし、皆も平助が転生しているのかも知らぬようだ。だが、平助もこの世界に生きて、前世で千鶴と夫婦になったと言うような気がしていた。
 では、千鶴はどの前世の記憶を持って生まれているのか。それが不安になってきた。俺以外の奴と添い遂げたのならば、前世の記憶等持たずに生まれて欲しい。競争率は激しくなるだろうし、俺は…昔も今も口下手だ。だが、好いて貰えるよう努力はする。きっと俺は千鶴以外の女子に恋をする事など出来やしないのだろう。いや、それ以上に俺以外の誰かの隣にいる千鶴を見る事は耐えられない。恋に生きるなど…前世の自分からは考えられない事だが、千鶴と夫婦となり、幸せな日々を送った記憶があるからこそ、今の俺があるのだと…思う。
 しかし…と思い悩んで、一年が経った。新入生に期待をしつつ、高校生活を満喫する事にしたが、翌年は「誰も」入学してくる事はなかった。
 この二年の間に、皆の記憶を話し合う機会もあった。何故皆の記憶がこうもバラバラなのか話をしたが、回答がある筈もなく、ただ、それぞれの生きた真実に驚かされる事が多かった。一番驚いたのは千鶴に双子の兄がいて、あの南雲薫がその兄だと言う事と、総司がついていながらも千鶴までも羅刹化したという恐ろしい事実だった。その話を聞いた時、思わず総司の胸座を掴んでしまったが、皆も俺と同じ思いだっただろう。いや、副長と俺は特に…か。実際に自らも羅刹となったからこそ、あの苦しみを体験しているからこそ許せない気持ちだった筈だ。愛しい人を自分の眼の前で羅刹にさせてしまう等…考えられない事だ。いや、耐えられない事だ。
 だがもし、相手が千鶴の双子の兄を目の前にした時、俺は非情になれただろうか…とも思う。
 皆、俺の話も聞いてきたが、特に話をするような事はなかったと、副長と袂を分かち、会津に留まり千鶴と添い遂げどんな時代になったのか、という事を話した。