(景時×望美 現代ED後)


 休みの日はいつも朝から景時の住むマンションに行くのが決まりになっていた。平日は学校があるし、景時も仕事で残業だったり…とお互いに合う時間がずれてしまうので、メールでのやりとりと電話のみだった。景時は珍しいもの、新しいものが好きで、はじめは携帯電話にも驚いていたけれど、慣れるのが早く、今では絵文字を使った…いや、ハートマークや音符の沢山入ったメールを毎日のように送ってくる。週末近くになると

「望美ちゃんに逢いたいよ」

 という内容の沢山のハートで埋め尽くされたメールが届く。その度に「初めての彼氏」にドキドキしながらも、ストレートに気持ちを伝えてくれる景時に「私も…」と少し控え目なハートの絵文字で返しては土曜日になるのを心待ちにしていた。

 ピンポーン。

 いつもならば「はいはーい」とドアを開けてくれる筈なのに、今日は全く反応がない。洗濯でもしてベランダにいるからチャイムが聞こえなかったのだろうか…と、再びチャイムを鳴らしてみたけど、やはり反応がなく、貰っていた合鍵でおそるおそる鍵を開けて「景時さーん?」と、何故か忍び足で入る望美。
 思えば現代に戻り、景時の住む場所が決まってすぐにこの鍵を手渡させていたけれど、尋ねる時はいつも景時がいて、使った事は一度もなかった。有川家には子供の頃からよく遊びに行っていたが、それとこれとは全く違うもので、恋人の部屋に一人で入るというのは彼女の特権で嬉しいけれど、それ以上にとても気恥かしいものなのだという事を知る。
 リビングにもベランダにも景時の姿は見えない。玄関には靴があったから、家にいるのは確かな筈…と首をかしげ
「まだ寝てる…のかな」
 そう独りごちると、後ろから羽交い絞めにされ、体を硬直させて振り向くと、景時の胸にぶつかる。
「来てくれてたんだね。ごめんね〜迎えられなくって。仕事持ち込んじゃって、明け方まで起きてたんだ」
 おでこにチュッと唇を当て、望美の頭を「いいこ、いいこ」と撫で撫でしてくる。見上げると髪の毛ボサボサのままで、眠そうな顔。こんな無防備な景時は京にいた時に一度見たっきりで、心臓が高鳴る。
 いつもは髪の毛をカチッとセットしていて乱す事なんて殆どなく、それもとても素敵で、大好きだったが、密かにこのボサボサ髪の景時をまた見たいと思っていたのだ。
 思っていたけど、こう不意打ちだと胸の高鳴りがうるさくてまともに見る事が出来ない。頬を染めて俯くと
「望美ちゃん? もしかして怒ってるのかな?」
 覗き込むと頬が赤いのが見え、怒っているようには見えず、どうして頬を染めているのか解らなかったが、こんな可愛い表情をする恋人を近くで見たくて、顔を近付ける。
「可愛いなぁ」
 景時はこういう言葉を心の中に仕舞い込まずに言葉にする。嬉しいけれど、恥ずかしい。どう反応していいのか解らずに、視線を逸らしたり、逃げたりする望美の反応もまたたまらない位に可愛くて、その気持ちもまた言葉にする。
 抱き締めたり、おでこにキスをするのもいつもしている事だったが、今日はいつも以上に頬が赤くて、どうしてここまで恥ずかしがっているのか、照れているのか解らず、嬉しい反応だったが景時は「どうしたの?」と聞かずにはいられなかった。
「髪…」
 普段ははカッチリとかきあげ、おでこが見える状態の髪。前髪を下ろした景時の顔は少し幼く見えて10歳も年上なのに「可愛い」と感じてしまう。そんな無防備さを感じる親しい人しか見る事のない顔。それがたまらなく好きだった。今、この世界でこの顔を知るのは望美だけだ。誰にも見せたくない。ずっと見ていたい。そんな気持ちが生まれる。
「髪…?」
 自分の頭に手を当てて
「あぁ、寝起きだから、ボサボサだね。整えてくるよ。ついでに顔も洗ってくるから待って……」
 言い終わる前に、景時の腕を引っ張る。
「ううん。今日は…そのままの景時さんが見たいです」
「ん? でも、この髪のまま出掛けるのもなぁ…」
 洗濯が好きで、着ている服も洗って綺麗なものばかり。髪型にも拘りを持っているのか、決してボサボサのまま外に出る事のない影時。頭をポリポリとかいて、首をかしげ少し困った顔をしていると
「キチッとセットした髪型も好きだけど、実はこんな無防備な景時さんも…好き…だから…今日は家でのんびりしませんか?」
 赤い顔のまま、見た目よりも柔らかい景時の髪に触れる。
「出掛けなくていいの? 行きたい所あるって言ってたでしょ」
「いいんです。景時さんのこんな姿は誰にも見せたくなくて…あの…私だけの…」
 自分で恥ずかしい事を言っているのを自覚しているのか、語尾が尻つぼみになり、また俯く望美の額に自分の額を当てて蕩けるような笑顔で
「お洒落した可愛い君を連れて歩きたいけど、他の男に見せるのは勿体無いない。本当は君のどんな姿もオレの方が独り占めしたい」
 思わぬ望美の独占欲が嬉しくて、景時こそ望美を自分だけのものだと宣言したくて、証明したくて唇を優しく重ねた。

「今日はずっとここで過ごそっか。」
 目を細めて、伝染したのか景時の頬も少し染まっていた。
「はい」
 眩しい笑顔で返事をする望美を抱き締め、髪の毛に顔を埋め
「明日の朝、オレにも無防備な望美ちゃんを見せてくれるかい?」
 と、甘い声で囁くと、今までで一番頬を赤くしてゆっくりと頷いた。


 前髪が下りているスチルを見た時にちょっとときめいてしまいまして、きっと望美もときめいた筈…! と、書いた話です。
 いつでもがっちりセットされている髪型をしている人の素の姿を見た時ってきゅんきゅんくるんですよね。そこが萌えなんですよ。景時さんは優しい性格で、人当たりがいいので、普段から同じイメージしかなさそうだけど、髪型はカチッとしているのはそこに何か隠されているような気がしたのです。