初恋
はじめは名前だけだった。写真ですら見た事がなかったのに、じいちゃんの話すあんずという女の子に興味を持ち、そして惹かれていった。
当然、会いたくなる。幼い頃に黙って探しに行ったが見つかって、連れ戻された。
―――子供過ぎたからだ。
中学生になり、想いは募るばかりだった。
会いたい。
俺の事を知って欲しい。
好きになって欲しい。
喧嘩に明け暮れながらも「強くなればパートナーになれる」なんて考えが頭を巡っていた。
子供の頃と違って「じいちゃんのたわ言」だと思うようにはなったが、それは……単に逃げ場を作っていただけにすぎない。
なさけねぇ。
自分で望月家に近付くのが出来ないなら…と、舎弟を使って写真を撮らせた。俺は折れそうに細い女は嫌いだ。だから「怪盗」になる為に鍛えているあんずのイメージはボーイッシュだったが、写真を見た時は驚いた。こんなに可愛いなんて…こんなに女の子だったなんて……
声が聞きたい。
抱き締めたい。
抱き締めて…キスして…そして……
会いたい気持ちが強くなるのが怖くて、写真は一度見て机の引き出しにしまい込んで、鍵をかけて、鍵を捨てた。
いずれ会うのだから、それまでに俺は桐生組八代目として強くなってやる。
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